14万フォロワーの読書インフルエンサーに学ぶ、Instagram運用のコツ
Instagramで読書系アカウントを運用し、14万3,000人以上のフォロワーを集めている土肥優扶馬さん。
もともとは「本のアウトプット用」に始めたアカウントを、どのように“リールが伸びるアカウント”へと育ててきたのか。
今回のインタビューから見えてきたのは、「自分が見せたいもの」から「相手が見たいもの」への徹底した視点の切り替えと、地道な試行錯誤でした。
本記事では、企業のSNS担当者の方が明日から取り入れられる形で、ポイントを整理してご紹介します。
スタートは「本のアウトプット」 伸びなかった初期フェーズ

土肥さんがInstagramアカウントを開設したのは約5年半前。きっかけは、読んだ本をアウトプットしたいというシンプルな動機でした。
当初は、本を手に持って写真を撮り、キャプションに感想を書くだけの投稿スタイル。フォロワーの増加も緩やかで、「自分が読んだ本の記録」の域を出ていなかったと言います。転機になったのは、「自分がアウトプットするための投稿」から「見る人に良い影響を与えるための発信」へと目的を変えたこと。
この“目的のアップデート”が、その後の戦略のすべてにつながっていきます。
一冊紹介から「まとめ投稿」へ テーマ設計でリーチが変わる

最初に大きく変えたのが、投稿フォーマットです。
– Before:1冊の本の写真+感想
– After:「若いうちに読むべき本5選」などの“まとめ投稿”
1冊紹介は、その本に興味がない人にとってはスルーされてしまいます。
一方で、「〇〇な人におすすめの本5選」「人生を変えた本5選」のような“まとめ+テーマ”の形にすることで、
– 興味の入り口が広がる
– 保存・シェアされやすくなる
という変化が起き、リーチが大きく伸びたそうです。
ここでのポイントは、最初に「誰向けの、どんなシーンのための情報か」をテーマで示すこと。企業アカウントであれば、
– 在宅ワークの日に食べたいランチ5選
– 初めての人におすすめの定番3品
といったまとめ投稿に置き換えて考えることができます。
哲学書から自己啓発・ビジネス書へ “ユーザーが読みたい本”に寄せる
次に見直したのが、扱う本のジャンルです。もともと土肥さん自身は、哲学書や人文学系など、やや硬めの本が好きだったとのこと。しかし、「万人受けしにくい」という課題から、
– 自己啓発
– ビジネス
– 習慣・健康
– お金
など、日常生活に取り入れやすく、「自分ごと化しやすい」ジャンルに意図的に切り替えました。
ここにも一貫しているのは、
「自分が好きなもの」だけでなく、「みんなが好きそうなもの」との交点を探す
という姿勢です。企業のSNS運用でも、「担当者が本当に推したい商品」だけを出し続けるのではなく、
– まずは多くの人が気になりやすい切り口
– その中で自社商品の得意領域
を掛け合わせてテーマ設計をすることが、入口を広げるうえで重要だといえます。
Canvaで文字投稿+ほぼ毎日投稿 “見た目”と“頻度”の掛け算
伸び始めたタイミングでは、クリエイティブの形も大きく変えました。本の写真中心のフィードから、Canvaを使った文字メインのデザインへ。5年半前はフィード投稿が伸びやすい時期でもあり、1投稿で100万リーチ超、4,000〜6,000フォロワー増といったバズも生まれたと言います。同時に、投稿頻度も
– 週1〜2回 → ほぼ毎日投稿
へと変更。「デザインを整える」「ジャンルを広げる」だけでなく、
ほぼ毎日投稿を続けることで、アカウント自体の“地力”を高めたことが、成長の大きな要因でした。
企業アカウントでも、クリエイティブ改善と同時に、
– 週1本しか出せないより、週3〜5本の“打席”を作る
– 小さな検証サイクルを何度も回す
という設計が重要になります。
伸びていた投稿が伸びなくなる「壁」とどう向き合うか

どれだけ伸びているアカウントでも、必ず訪れるのが「伸びていた投稿が急に伸びなくなる時期」です。
土肥さんも、
– 伸びていたフィード投稿が伸びなくなった
– そこで思い切ってリール投稿へシフトした
という経験を語ってくれました。リールに切り替えた当初は、またゼロからのスタート。フォーマットも、構成も、正解が分からない状態からの試行錯誤です。
ここで重要なのは、
「正解はない」前提で、とにかく試して・分析して・また変える
という姿勢を持ち続けること。アルゴリズムの変化や、ユーザーの飽きは避けられません。
だからこそ「以前の成功パターンにしがみつかない」ことが、長期的な成長には不可欠だといえます。
伸びるクリエイティブの共通点
抽象度の高いテーマ × まとめ投稿
実際に投稿を分析していく中で、土肥さんが掴んだのは、
– 死ぬまでに読むべき本
– 人生を大きく変えた本5選
といった、抽象度の高いテーマの方が伸びやすいという傾向でした。一方、
– 言語化力が身につく本
– 習慣化に役立つ本
のように、テーマを絞り込みすぎると、興味を持つ人の母数が小さくなり、リーチも伸びにくくなります。
これは企業アカウントでも同じです。いきなり「○○という機能の詳細解説」から入るのではなく、
– 失敗しない○○の選び方
– はじめての人がつまずきやすいポイント3選
といった広めのテーマ設定をしたうえで、自社商品につなげる方が、結果として多くの人に届きやすくなります。
「ついつい最後まで見ちゃう」導線を観察する
土肥さんが他アカウントを分析する際に見ているのは、
自分が“なんとなく最後まで見てしまった動画”は、なぜそうなったのか
という点です。具体的には、
– 〇〇しないと絶対損」といった強いフック
– 5つ目が一番おすすめ」と、最後まで見たくなる構成
など。こうした“視聴維持率を高める仕掛け”を、自分のジャンルにどう翻訳できるかを考えながら、日々クリエイティブに反映していると言います。
オリジナリティは「ツッコミポイント」でつくる
一方で、「伸びている投稿をトレースする」だけではコピーになってしまいます。
土肥さんが大事にしているのが、「自分らしさ」が伝わるオリジナリティの部分です。
代表的なのが、本をくるっと回しながら紹介する見せ方。さらに、読み込んだ本の角を折る自身の習慣もそのまま見せています。
視聴者からは
– 折り目の多さから、本当に読み込んでいることが伝わる
といったコメントが集まり、結果として強い信頼とエンゲージメントにつながっています。暮らし系動画で“わざと水をこぼす”“あえて散らかった状態から片付ける”など、思わずツッコミたくなる要素がフックになるのと同じ構造です。
企業アカウントでも、
– 現場のちょっとしたこだわり
– 担当者の口癖や、作業の手つき
など、「人」を感じる小さなツッコミポイントを意図的に埋め込むことで、ブランドへの親近感を高めることができます。
冒頭3秒で「誰が」「なぜ話すのか」を示す

最後まで見てもらうためには、冒頭の設計も欠かせません。
土肥さんが以前効果を感じたのは、
– 年間200冊以上読む社会人が選ぶ〜
といった“権威性の一言”を最初に置くことでした。
– どんなバックグラウンドの人が
– どんな視点で選んだ情報なのか
を最初に提示することで、視聴者は「この人の話なら聞いてみよう」と感じ、離脱率が下がります。
企業であれば、
– ○○歴10年の開発担当が解説
– 現場スタッフが本音でおすすめする3品
といった形で、“誰が話すのか”を顔出しやテロップで必ず伝えることがポイントです。
アカウント運用のゴールと収益構造
土肥さんがアカウント運用で一番の軸に置いているのは、
「読書をする人が1人でも増えたら、それだけで続ける理由になる」
という想いです。インスタライブで本を紹介した際に「今買いました」とコメントをもらえることが、何よりのやりがいだと語ります。一方で、ビジネス的な側面としては、
- 出版社・著者からのPR案件
- 出版社・書店とのイベント開催フィー
- SNSコンサルティングや1対1のコーチング
といった複数の収益源を築いており、
「フォロワーが増えた結果として、仕事の選択肢が広がった」状態を実現しています。
一番大事なのは「自分目線をやめること」
最後に、アカウント運用で最も大事にしていることを伺うと、
土肥さんは迷わずこう答えました。
「自分目線をやめること」
SNSコンサルの現場でも、「私はこのフォントが好き」「この色が良いと思う」
という声がよく出てくると言います。それに対して、
– まずは“伸びている投稿”をトレースする
– 自分の好みより、「ユーザーが反応している形」に合わせる
という“相手視点への切り替え”が、最短で伸びる近道だと強調していました。これは、企業アカウントにとっても耳が痛いテーマかもしれません。ブランドの想いを大事にしながらも、
– ユーザーが本当に見たいのは何か
– 今、このプラットフォームで評価されている表現は何か
にきちんと向き合えるかどうかが、結果を分けるポイントになっていきます。
企業SNS担当者へのヒントまとめ
今回のインタビューから、企業アカウント運用に転用できるポイントを整理すると、次の5つに集約できます。
- 目的を“自分の発信”から“相手への影響”にアップデートする
- 一冊紹介より「まとめ投稿」や“抽象度の高いテーマ”で入口を広げる
- Canvaなどで世界観を揃えつつ、週3〜5本以上の投稿頻度を確保する
- 「ツッコミポイント」や現場のこだわりなど、人間味のある要素を仕込む
- まずは伸びている投稿をトレースし、自分の好みよりユーザー目線を優先する
そして、土肥さんが提言していたように、ブランド力がこれからの企業ほど、
「企業公式アカウント」だけで戦うのではなく、
「社内の人が個人として発信し、その中で企業を紹介する」
という構図を設計することも有効です。アカウント運用の“正解”は常に変わっていきます。だからこそ、今回のような実践者の声をヒントにしながら、自社の状況に合わせた検証を一つずつ積み重ねていくことが、SNSで成果を出す近道になるはずです。