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公開  2025.08.08

成功と失敗が分かれた「無人店舗」ブームのいま

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成功と失敗が分かれた「無人店舗」ブームのいま

コロナ禍を契機に一気に注目を集めた無人店舗。冷凍食品の販売店や無人コンビニ、無人ホテルなど、多様な業態で導入が進みました。しかし2025年現在、成長を続けている店舗がある一方で、撤退や縮小を余儀なくされる例も少なくありません。 なぜ、多くの無人店舗が思うように定着しなかったのか? 逆に、成功を収めている店舗にはどのような共通点があるのでしょうか。 この記事では、無人店舗の現状と課題、そして持続的に運営するためのヒントを探ります。

コロナ禍を契機に一気に注目を集めた無人店舗。冷凍食品の販売店や無人コンビニ、無人ホテルなど、多様な業態で導入が進みました。しかし2025年現在、成長を続けている店舗がある一方で、撤退や縮小を余儀なくされる例も少なくありません。
なぜ、多くの無人店舗が思うように定着しなかったのか? 逆に、成功を収めている店舗にはどのような共通点があるのでしょうか。
この記事では、無人店舗の現状と課題、そして持続的に運営するためのヒントを探ります。

無人店舗はなぜ増えた?その背景と広がり

多様化する業態

一口に「無人店舗」と言っても、その形態はさまざまです。
全国に急増したのが、冷凍食品やお惣菜を扱う24時間営業の無人販売店。都市部では、顔認証やキャッシュレス決済を導入した“無人コンビニ”が登場し、話題を呼びました。
さらに、ヘアサロンやパーソナルジム、ゴルフ練習場、レンタルスペースなど、サービス業でも無人化の取り組みが進んでいます。共通するのは、スタッフが常駐せず、システムによって入退室・決済・対応を完結させている点です。

非接触ニーズとテクノロジーの進化

無人店舗が広がった背景には、社会と技術の両面からの後押しがありました。
第一に、新型コロナによって非接触・非対面の購買行動が一般化。いつでも気軽に買いたいというニーズに、無人店舗はマッチしていました。
また、慢性的な人手不足と人件費の上昇は、小売・飲食業界にとって大きな負担。少人数で運営可能な無人店舗は、コスト面での解決策としても注目されたのです。
加えて、スマートロックや遠隔監視、キャッシュレス決済の進歩により、無人運営のハードルは一気に下がりました。

無人店舗は“続かない”?見えてきた現実

かつて「未来の買い物体験」として注目を浴びた最先端の無人店舗も、必ずしも成功を収めているとは限りません。

その代表例が、Amazonが展開したレジなし店舗「Amazon Go」です。入店から退店まで一度もレジを通らずに買い物できる仕組みは大きな話題を呼びましたが、2023年以降、複数の店舗で閉鎖が相次ぎました。背景には、維持管理コストの高さや、想定よりも浸透しなかった利用体験があります。

 

同様に、中国で展開されていた「Bingo Box」も、先進的な無人コンビニとして注目されたものの、多くの店舗が閉鎖。現場では「決済がわかりにくい」「アプリ登録が手間」といった声があり、利便性を高めるはずのテクノロジーが、逆にユーザー体験の障壁となってしまったケースです。

つまり、最新技術を駆使したからといって、それがそのまま“使いやすさ”や“売上”に直結するわけではないのです。

いくらテクノロジーが優れていても、「使われない無人店舗」になってしまえば、持続的な運営は難しい――この現実が、今あらためて浮き彫りになっています。

無人店舗の成功には、技術力以上に“現場での実用性”や“利用者視点での設計”が不可欠だということが言えるでしょう。

無人店舗が直面する3つの課題

1. セキュリティの壁

無人であるがゆえに、万引きや不正利用のリスクはつきものです。監視カメラや遠隔操作による対策はあっても、完全な抑止にはつながらないケースもあります。
また、QRコードの改ざん、不正アクセス、機器の誤作動など、IT面のセキュリティリスクも見過ごせません。人がいないことで生じる“隙”をどう埋めるかが、無人店舗の大きな課題です。

2. ユーザー側の心理的なハードル

無人店舗では、利用者自身が機器を操作したり、手続きを進める場面が多くなります。
そのため、「人にやってもらえる方がラク」と感じる人にとっては、利用の手間が心理的なハードルになってしまうこともあります。

さらに、たとえ操作自体が簡単であっても、「ちゃんと決済できたか不安」「間違ったときに誰にも聞けない」といった抵抗感は根強く残ります。

特に日本では、店員とのやりとりが“安心”につながる文化的な背景もあり、「無人店舗=冷たい・不親切」という印象を持つ人も少なくありません。

この不安は高齢層だけでなく、テクノロジーに慣れた若年層でも、「人がいないと緊張する」「トラブル時にどうしていいかわからない」といった声として表れています。

無人店舗を継続的に利用してもらうには、“心地よさ”や“安心感”といった感情面への配慮が欠かせません。

3. 高コストな初期投資

無人店舗は「人件費がかからない分、価格も安いだろう」と思われがちですが、実際には運営コストが高くなるケースも少なくありません。
無人レジや監視設備、センサー類などの初期導入コストは高額で、導入後も定期メンテナンスやトラブル対応の費用がかかります。
売上が安定しない場合、投資回収に時間がかかり、経営リスクが高まります。

成功している無人店舗に共通する3つの工夫

1. とにかく「迷わせない」設計

成功事例に共通するのは、誰でも直感的に使えるシンプルな設計です。
たとえば、ある冷凍食品販売店では「冷凍庫を開けて商品を取り、QRコードを読み取るだけ」という分かりやすさを重視。さらに、操作手順を床のサインやモニターで案内することで、スマホに不慣れな人でも安心して利用できるよう工夫しています。
“最新技術を使うこと”よりも、“誰でも迷わず使えること”が重要なのです。

2. 業態と無人化の相性を見極めている

業態と無人運営の相性を正しく見極めているかも、成功のカギ。
接客が必要なく、業務が定型化している業種は、無人化との親和性が高いです。
ホテル業界の「mizuka」や「変なホテル」は、予約から退室までをスマホで完結させることで、省人化に成功。
ジム業界も同様で、チョコザップやエニタイムのように、利用者が自ら機器を操作して運動する形式は、無人でも成り立ちやすいモデルです。店舗側は利用環境を整えておくだけでよく、接客に大きなリソースを割く必要がありません。
一方で、接客が重要なアパレルや、補充・調理が必要な飲食業は、完全無人化には向かず、苦戦が続いています。

3. 完全無人ではなく「省人化」の柔軟な体制

成功事例の多くが採用しているのが、“完全無人”ではなく“省人化”の運営モデルです。
たとえば、清掃や補充だけを担当するスタッフを巡回させたり、店内にチャットサポートや通話ボタンを設置したりと、要所だけ人の手を残しています。
この“支えが見える無人化”が、ユーザーの安心感と運営の安定化を同時に実現しています。

無人店舗の未来:「完全無人」より「最適バランス」へ

テクノロジーは進化していても、2025年時点では「完全無人」を実現するには多くの壁があります。
むしろ今後求められるのは、「どこまで自動化し、どこに人の役割を残すか」という見極めです。
“見た目は無人、でも裏では支えがある”――そんな柔軟で安心感のある運営こそが、これからの無人店舗の理想的なあり方と言えるでしょう。